人形佐七捕物帳055
季節感満載、｢雪｣が巧妙に使われています
「雪達磨の怪」（横溝正史）
（「完本 人形佐七捕物帳三」）
春陽堂書店
辰と豆六の目の前で、
鳥越の親分･茂平次に
しょっ引かれた紋次。
娘を殺して
金を奪ったのだという。
だが佐七は、
現場にあった雪達磨と
下手人の足跡がないことを
疑問に感じる。
その中でまた一人、娘が殺され、
そこにも雪達磨が…。
人形佐七捕物帳第五十五話。
先日は｢雪女郎｣という作品を
取り上げましたが、
今回は｢雪達磨の怪｣。雪達磨は
あまり｢怪｣しくはないのですが、
本作品においては
一つの謎を創っていて、
面白く読むことができます。
娘が三人立てつづけに
殺害されるのですが、
その目的は何か？
そして下手人は誰か？
【捕物帳〇五五｢雪達磨の怪｣】
紋次
…町内の若い衆。遊び人。
お繁
…三味線の師匠。文字繁と名乗る。
紋次の姉。
お蝶
…葉茶屋･奈良屋の娘。不良娘。
最初に殺された。
お品
…法衣屋･井筒屋の娘。不良娘。
二番目に殺された。
お米
…宝屋の娘。不良娘。
三番目に狙われる。
おくみ
…花屋の娘。前年の暮れに身投げした。
十七歳だった。
亀吉
…お蝶の死体を発見した老人。
花屋の老爺。おくみの養父。
弁之助
…隆光寺の小姓。美男子。
鳥越の茂平次
…十手持ち。四十がらみの大男。
海坊主という綽名がある。
清七…髪結い床･海老床の親方
辰･豆六…佐七の乾分。
お粂…佐七の女房。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
本作品の味わいどころ①
季節感満載の佐七捕物帳
横溝正史の捕物帳は、
現代作品と異なり、
季節にちなんだ素材が使われることが
多いのが特徴です。
本作品も発表されたのは
昭和17年(1942年)2月。
｢雪｣が巧妙に使われています。
一つは表題にもなっている｢雪達磨｣。
なぜ殺人現場に
雪達磨が創られているのか。
そして一つは｢足跡の謎｣。
現場には被害者の娘の足跡は
残っているものの、
下手人の足跡はないのです。
犯人は｢雪達磨の精｣なのか？
さらには第一の殺人が起こる以前に、
紋次が見た雪達磨の
目が光っていたこと、
そしてその雪達磨の胸に
簪が突き刺さっていたこと、
いくつもの｢謎｣が
用意されているのです。
それを読み解くのが
本作品の味わいどころでしょう。
本作品の味わいどころ②
引き立て役の海坊主登場
今回登場したのがもう一人の御用聞き、
鳥越の親分･海坊主の茂平次、
この人物がいい味を出しています。
猪突猛進型で、推理も取り調べもなく、
いきなり怪しい人間を
お縄にしようとします。
最初の殺人では紋次をひっくくり、
二番目の事件では
弁の助をお縄にしようとして
簡単にアリバイを立証され、
三番目の一件では
現場に現れた紋次を
再び取り押さえるものの、
そのすきに娘を殺害されるという
大失態を演じます。
佐七の引き立て役として
申し分のないはたらきをしています。
もっとも、三番目の事件については、
この海坊主が下手人捕縛のために、
お品を屋敷から外出させ、
いわば本人を｢囮｣にした末に
殺害されているのですから、
本来なら断罪されてしかるべきであり、
いささかやり過ぎの感はあります。
まあ、細かい点には目をつむって、
筋書きを面白くする役どころの登場を
喜びましょう。
本作品の味わいどころ③
下手人は？悲しき真相が
すべてを見抜いた佐七が、
またもや人情を効かせます。
しかし下手人はその慈悲に
感謝しつつも自害して果てます。
結局は事件を未然に防ぐことはできず、
下手人を捕らえるにもいたらず、
しかし、そこに横たわる過去の悲劇に、
読み手は涙せざるを得ないのです。
人形佐七捕物帳は、
一つ一つに味わい深い筋書きが
用意されています。
それが全部で百八十篇あるのですから
驚きです。
春陽堂書店刊行の
｢完本 人形佐七捕物帳｣で、
そのすべてを
味わっていきたいと思います。
（2023.1.27）
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